東京高等裁判所 昭和38年(ツ)106号・昭38年(ツ)105号 判決
一、民事訴訟法第五一九条第一項但書所定の承継に関する証明書の提出がなく、又は同法第五二〇条第一項所定の裁判長の命令がないために、当初承継執行文の付与手続に瑕疵があるとしても、その後承継執行文付与に対する異議の訴の口頭弁論において、承継の事実が証明された以上、右の瑕疵は治癒され、その承継執行文は、これを取消すべきではないと解するを相当とする。しかして、右の理は承継の不存在を異議の理由とする民事訴訟法第五四六条の訴において、右記のごとき執行文付与に関する形式的要件の欠缺を併せて主張することが許されるかどうかにつき、積極、消極いずれの見解を採つてもその結論には変りはないものというべきである。
本件記録によれば、上告人らが主張するように、上告人らは原審で上告人丸正製紙株式会社が上告人渡辺から本件物件の占有を承継した事実はないと主張し、併せて右記のごとき執行文付与に関する形式的要件の欠缺を主張したことが認められるけれども、本件口頭弁論において右承継の事実が証明されたことは、すでに上記判示のとおりであるから、仮に上告人の主張するとおりの形式的要件の欠缺があり、そのために本件承継執行文の付与に形式的の瑕疵があるとしても、右瑕疵が治癒されたことは明らかであり、結局において上告人らの右主張は失当といわざるをえない。所論摘示の原判決の理由(原判決の理由二の(四)の3の部分)の記載は、やや不明確のきらいがないではないが、善解すればそのいわんとするところは上記説示と同一であることが認められるから、結局において正当といわなければならない。
二、債務名義たる和解調書の条項に「債務者(賃借人)が賃料又は敷金の支払を怠つたときは賃貸借契約は解除される」旨の記載がある場合、賃料又は敷金を支払つたかどうかということは、立証責任の分配を定めた衡平の精神により、債務者において立証責任を負うと解するを相当とする。そして民事訴訟法第五一八条第二項にいう「他の条件」とは債権者(賃貸人)において一般に立証責任を負つている条件を指すものと解するを相当とするから、債権者は執行文の付与を求めるに際し、債務者に上記のような延滞があることを証明する必要もなく、又裁判長の命令をまたないで書記官が執行文を付与することができるものといわなければならない。しかして、債務者が上記和解条項記載のごとき懈怠行為がないことを理由として執行文付与に対する異議の訴を提起した場合に、執行文の付与当時には債務者に敷金及び賃料の延滞がなく、従つて執行文の付与に瑕疵があるとしても、右訴の口頭弁論終結時までの賃料全部を支払つたことを債務者において主張立証しないかぎりは、右瑕疵は治癒され、執行文は結局において取消すことができなくなるものと解するを相当とする。
原判決によれば、原審は当事者間に争いのない事実により、本件和解調書に上記判示の条項が記載されている旨確定し、そして上告人渡辺は本訴において、口頭弁論終結時までの賃料全部を支払つたことについてはなんら主張立証しないところであるから、結局において本件執行文の付与は相当である旨判示したものであり、右原判決の事実の確定及び判断は本件記録並びに上記判示に徴し肯認することができる
(村松 江尻 杉山)